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壮大な和の仕掛けの空間
驚きには続きがあった。
「柊家新館は木造建築ではないんです。」
言われるよりも先に柊家新館を見てしまうと、
この事実に驚かされる。
柊家新館は、
コンクリートに鉄骨を組み込んだSRC構造。
「その頑強な骨格の内側に
さまざまな素材・技法を凝らした、
木造建築が組み込まれているんです。」
柱のない新館の大広間も、
この構造が支えてこそである。
そして、
新館の7室はそれぞれが独自のコンセプトをもって、
創り込まれている。
床の間一つとっても、
玉虫の羽で飾り細工をした部屋があれば、
濃淡2色の神代杉を組み合わせた部屋もあり、
それぞれの部屋の表情や雰囲気には明確な違いがある。
その7室の内、
2室は和紙を張り巡らせて創られている。
塗りの壁でもなく、
ましてやコンクリートの打ちっ放しでもない。
「一から創り込めるものはないかと探したんですが、
和紙ならなんとか漉くところからこだわれそうやった。」
道田が新潟で調達した和紙を、
京都の伝統工芸師が
緻密な計算と手仕事の上に張り合わせていく。
3階のある部屋の照明には、
和紙の素材感を生かし、明かりの量を調節することで、
市松の文様を浮かべる仕掛けが施されている。
そこにはかつて味わったことのないような、
柔らかな繭に包まれたかのような安らぎがある。
その温もりこそ、
代々、職人に受け継がれてきた手作りの粋であり、
新館にも受け継がれた柊家の伝統ではないだろうか。
柊家にとっての新館
新館着工後、道田一人をのぞいて、
ほとんどみなが半信半疑のまま仕事を進めたことだろう。
そんな中、
目の前に立ちはだかる既成概念を解体しながら、
道田だけは揺らぐことなく道を示し続けた。
「カタチにせんことには、
どんだけキレイごと並べても意味がない。」
結果をもってしか、
自分の描く世界は伝えられない。
道田がひとりで描いたはずの『妄想』は、
やがて仕事にかかわる人々の手によって具現化され、
全てを任せてくれた柊家に道田は応えた。
そうして出来上がった新館の大広間。
視界を遮る柱が一本も存在しない、
風景が水平方向に広がっていくこの空間に触れ、
誰もが息を呑む。
「1から10まで理屈で説明して、
『なるほど、すごいですね。』と言わせるのは容易いこと。」
「そうではなくて、理屈抜きにびっくりさせられるかが大事。」
「パッとみて感動できひんかったら、
ここまでやった意味がないでしょ。(笑)」
実際に3時間かけて、
柊家の旧館と新館を案内してもらったことで、
この言葉の意味を本当に解することができた。
「端折っても3時間。
いちいち説明したら1日あっても足りひんかもしれません。」
見れば見るほど、触れれば触れるほど、
柊家には道田の施した仕掛けが張り巡らされている。
それでいて、
足を踏み入れた瞬間、
どの空間にもアッと驚かされることばかりなのだ。
「自分が話す以上に、
柊家の皆さんがお客さんに楽しそうに説明したはるのがうれしい。」
新館ができたことで、
旧館にも泊まってみたいと思う人が増え、
柊家に好循環をもたらしているそうだ。
実はこの連鎖こそ、
道田が老舗旅館に潜ませた一番の仕掛けかもしれない。
そうして話に聞き入るうちに、
気がつけば宿泊客を迎える時間が訪れた。
まるで今まで眠っていたかのように、
柊家が緊張感で満ちてくる。
今宵もまた、
多くの宿泊客が道田の創り出した数寄に出会い、
そこかしこで驚きの声を上げるに違いない。
PHOTO : 馬場道浩
あとがき
珍しいほど、
今年の冬はよく雪が降る。
京都の街の中にあって、
雪化粧した柊家は、また一段と風情を漂わせる。
取材をはじめてから、
ちょうど、3ヶ月が経とうというところか。
「来るものは拒まない。」
その言葉に甘え、
何度も中目黒のオフィスに伺い、
時には、京都でも取材の時間を頂いた。
この場を借りて、改めて感謝の意を表したい。
繊細かつ緻密な仕事と、
本人の見た目の印象はやや異なる。
何も聞かされなければ、
今なお現役のスポーツ選手と言われた方がしっくりくるぐらいだ。
そのギャップに多くの人は驚きながらも、
さらに引き込まれていくのだろう。
話を切り出したが最後、
話題は尽きず、その枝葉はどこまでも広がる、
時に深く、時に広く。
圧倒的な知識の埋蔵量に、
話しを聞きながら途方に暮れてしまうことが幾度もあった。
2時間、3時間と、
取材の度に時間は飛ぶように過ぎた。
ある時、
こんな話を聞かせて頂いた。
「和の空間には湿度があって、
手入れを怠ると、すぐに緊張感のない空間になってしまう。」
それは「艶」とも置き換えられるだろうか。
数寄をはじめ、
和の建築は常にメンテナンスを必要とする。
そうすることで、
出来上がった頃よりも、
建物や空間はより艶やかに、味わいを増していく。
インタビューにあるように、
柊家新館には、和紙でつくられた部屋など、
素材そのものの風合いを全面に押し出したものが多い。
「すぐに汚れやしないか、、、」
気を揉む柊家の面々をよそに、
宿泊客は皆、綺麗に部屋を使って下さっているそうだ。
「建物や空間に緊張感があれば、
それは、宿泊客にも自然と伝わるもんなんです。」
道田はこうも口にしていた。
ピリリと緊張感の効いた空間に、
老舗ならではの懐の深さで迎えてくれる宿。
そんなおもてなしを味わえる場所は、
本当に限られているのではないだろうか。
緊張感の中にある安らぎ。
それこそが、老舗旅館の魅力かもしれない。
柊家新館の大広間。
三方をガラスで囲まれたこの空間もまた、
心地良い緊張感に満ちている。
見渡す限り、
柱が一本もないというが、
果たして、
気のせいだろうか。
柊家に脈々と受け継がれる、
老舗の風格の傍らに、
道田 淳 という、
揺らぐ事のない一筋の柱の存在を感じるのは。
2008.2.29
voice of KYOTO 編集長
宮下 直樹
voice -inside- vol.3 道田 淳
1.京都は自分にとっての ライバル (2008.2.14 )
2.柊家の魅力とは (2008.2.22 )
3.壮大な和の仕掛けの空間 (2008.2.29 )
柊家新館を中心とする Photo library (2008.3 公開予定 )